木原文庫について
[about]

 1882年、米国の美術研究家アーネスト・F・フェノロサが日本で講演した際Japanese painting(日本画と翻訳された)の特徴として
1. 写真のように写実を追わない
2. 陰影が無い
3. 鉤勒(こうろく、輪郭線)がある
4. 色調が濃厚でない
5. 表現が簡潔である
と述べました。
 これは伝統的な日本画の技法の性格と本質をたいへんよく把握した一節ですが、こうした絵画の制作にあたって当時の画家が行った努力と修練は並大抵のものではありませんでした。

 しかし時代が明治・大正・昭和と変遷する過程でそうした修練は次第に忘れられ戦後から現代に至る日本画は単に岩絵の具を用いたというだけで技法的にも油絵のそれに近いものが歓迎される趣があり、今日では線描の美しさに重きをおく伝統的な日本画はほとんど見られなくなってきました。そして明治・大正・昭和前期までの日本の優れた画家達の作品も次第に忘れられつつあり彼等の画業の多くが散逸、破却の運命に瀕していると言っても過言ではありません。
 これは日本の歴史、民俗と照らし合わせてもたいへん不幸なことであり多くの日本画家の業績を保存し後世に伝えていくことは後代に生を受けている我々の責務と思われます。

 木原文庫は、従来、私的収集として明治から昭和前期に至る日本画をはじめとする日本美術の優品を集めて、これを保存することに意を尽してきており同時にこれらの時代にかかわる歴史的諸文献についても収集してきました。今回財団を設立してその活動域の拡大と深化につとめることは次の世代に我々が受け継いだ又は我々が生きた文化を伝承しそこに培われた高い水準の文化への認識と共感を得るために大変重要かつ必要なことだと思っています。

 また近年こうした保存活動とは別に、医療の中にも各々の専門的治療の追求とは別個の観点から主にメンタルケアを目指して「臨床美術」という試みが叫ばれるようになってきました。これは絵画やオブジェ等の作品を楽しみながら、高齢者の介護予防や認知症の予防改善、ストレスの緩和、意識改革等に役立てようとすることでいわゆる音楽療法と共に「芸術療法」のひとつの分野として確立しつつあります。
 これは米国に始まり小児から社会人、高齢者各々にとって有用性があると紹介されており、我々もそれに則って日常臨床の場での美術活動について模索を進めているところです。

 木原文庫財団は日本文化に関する調査研究、歴史、美術に関する資料の保存、対外交流、また美術品の医療における役割の追求などを通じて我が国の文化の向上と発展に寄与することを目的とするものです。この財団の設立により日本の美術と歴史、民俗文化を愛する人が一人でも多くなり、また従来の枠組みに加えて医療分野においても活動の領域を拡げ、多少なりとも社会に貢献することができればこの上ない喜びであります。

平成30年8月21日
木原眞人


木原文庫概要
[corporation overview]

名称
一般社団法人 木原文庫
所在地
〒348-0054 埼玉県羽生市西5-28-4
設立日
2018年(平成30年)10月26日

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